映画「THE CHASE」の舞台裏を語る対談。アリゾナで開催の250マイル「Cocodona 250」のドキュメンタリーがまもなく公開
2021年に始まったばかりのイベントですが、存在感を高めています
【この「犬猫通信」をSubstack ( https://dogsorcaravan.substack.com/ ) で配信していますが、note ( https://note.com/koichi2000/m/m036979ead879 )で配信することも検討しています(noteでもテスト配信しています)。現在Substackとnoteでどちらで読むのがよいか、ご意見あればコメントをお寄せください。】
アメリカ、アリゾナ州の砂漠地帯のトレイルをコースとする250マイルを125時間以内で完走することを目指すのが「Cocodona 250」というイベントです。世界のトレイルランニング界のトレンドとして、100マイルの人気が定着してきた一方でさらに長距離に挑戦したいというランナーのニーズは増しているようです。そうした声に応えるべく、アリゾナ州フェニックスを拠点に数多くのトレイルランニング大会を主催しているAravaipa Runningが2021年に立ち上げたのがこの大会です。
昨年2024年の大会に参加した5人の選手のストーリーを中心とするドキュメンタリー映画、「THE CHASE」が今年5月の大会を前に公開されます。この公開を前に、映画の監督を務めたディラン・ハリス Dylan Harris とAravaipa RunningのCEOでありこの映画のプロデューサーでもあるジャミル・クーリー Jamil Coury がこの映画の舞台裏について語る動画が公開されました。その内容についてご紹介します。
映画の予告編はこちら。
舞台裏についての対談はこちら。
映画制作の背景と動機
映画制作のきっかけは監督のディラン・ハリスがジャミル・クーリーからの電話を受けたことに始まりました。ディランはウェスタンステイツを題材にしたドキュメンタリー映画「Unbreakable」(監督・JBベンナ、2012)にインスパイアされていたといい、この映画でもウルトラランニングの本質を描くことを目標にしたといいます。
そのために、これまでのCocodonaのチャンピオンであるマイク・フェスティーグ Michael Versteegやジョー・マコノヒー Joe McConaughy aka String Bean、マイク・マクナイト Michael McKnight、100マイルレースで数多くの結果を残すジェフ・ブラウニング Jeff Browning、アーレン・グリック Arlen Glickといったランナーを大会前から取材します。彼らの個性やバックグラウンドを深掘りし、それぞれ異なる環境でのトレーニングや価値観を描写する、という方向性が固まります。
制作の過程とチャレンジ
ランナーたちの自宅への訪問やトレーニング風景の撮影を通じて、彼らとの信頼関係を築き、日常生活を通じて競技への情熱を捉えようとします。大会本番ではレースの進行に合わせて撮影しますが、レース中に何が起こるか予測できないため、柔軟な計画を立てることになります。
制作チームは3~4人と少数で長時間にわたる撮影を行いますが、このスポーツに深い関わりを持つクリエイターが制作に加わることで、質の高い映像が確保できたといいます。撮影された映像素材は約8テラバイトにおよび、6~7か月を費やして、映画として一貫性のあるストーリーラインを作り上げることになりました。
映画のテーマと意義
この映画については、レースでの成績やタイムといった競技パフォーマンスにとどまらない物語を描いた、と二人は話します。単なる結果ではなく、ランナーたちが経験する感情や成長に焦点を当てます。特に初挑戦で優勝候補と見られていたものの勝利を逃したアーレン・グリックがレース後に語った「勝利以上に得られたものが大きかった」という言葉はこの映画を象徴する一言だった、といいます。
また、制作にあたってはスポーツブランドの資金協力を得ることはあえてしなかった、といいます。ブランド主導ではなく、純粋なランニング文化を捉えて、コミュニティに貢献することを目的とした作品です。観客にはランナーたちの人間性や背景を深く理解してほしいという話します。
3月からプレミアツアー、4月末にはYouTubeで無料公開も
2010年のウェスタンステイツに挑む4人のランナー(ハル・コナー、アントン・クルピチカ、ジェフ・ロウズ、キリアン・ジョルネ)とレースの劇的な展開を描いた「Unbreakable」はトレイルランニング・ムービーの金字塔、伝説的な作品です。ディラン・ハリス監督は今回の自らの作品は「Unbreakable 2」を作るつもりで制作を始めたと話しています。「THE CHASE」はトレイルランニングというスポーツの厳しさと美しさ、深い精神性、選手と家族や大会スタッフのコミュニティを支えるスピリッツといった要素が描かれるのではないかと楽しみです。
私は彼らがスポーツブランドのサポートを得ずに制作する道を選んだことにも、監督のディラン、Aravaipaを率いるジャミルの本気を感じました。
私の経験でもスポーツブランドに限らず企業のスポンサーから資金を得て何らかのコンテンツを作ることは、商業主義の影響を避けられません。とりわけ日本のこのスポーツ界隈ではそのように感じます。それはこのスポーツがニッチな存在であることと、多くのブランドがグローバル企業であり、日本の拠点や販売代理店は日本というローカル市場の出先であることが背景にあるように感じます。アメリカでは「Unbreakable」でもカルチャーの描写とストーリーテリングを優先していますが、ブランドロゴのプレースメントもされていました。
こうした状況下で純粋にカルチャーとストーリーを追求し、トレイルランニング文化に貢献するという判断には頭が下がります。これは私の推測ですが、ジャミルの新年と行動力を評価して思い切った投資をするエンジェル投資家がいるのでしょう。
映画は2025年3月から4月にかけてアリゾナやコロラド、ユタの各地、選手にゆかりのあるオハイオやワシントン州(シアトル)など全米10都市でプレミア上映が予定されています。
その後、4月末にはYouTubeで無料公開を予定しているとのこと。これも思い切った判断だと思います。日本に住む私にはプレミア上映会に参加することは難しいですが、制作費用の補填に充てられるというTシャツ(ジェフ・ブラウニングの息子が描いたというランナーのイラストがプリントされています)などの公式グッズが日本からも買えるなら、気持ちだけでも協力できたらと考えています。