スペインで開催されるトレイルランニングの大会で会場を盛り上げるMCとしてのデパ Depa の声に聞き覚えのある方も多いでしょう。彼はMCの他にも、スペインでトレイルランニングのイベントをプロデュースしており、トレイルランニングの専門誌を立ち上げたジャーナリストでもあります。私も彼とは10年来の友人です。
そのDepaが昨年春からポッドキャスト「Perfiles」を立ち上げています。スペインのトレイルランニング界で注目される人物との一対一の対談で、その人物の人生や世界観を深く掘り下げるエピソードが月一回のペースで公開されています。スペイン語はわからない私ですが、YouTubeの自動翻訳の字幕やAIツールの力を借りて聴いています。
今週公開されたエピソードはシェイラ・アビレス Sheila Avilés のエピソードです。1993年生まれの彼女は2015年頃にトレイルランニングを始めるとすぐにその実力を発揮します。2017年にはスカイランナー・ワールドシリーズに本格的に参戦し、Skyrace Comapedrosaで優勝。Sky Classicシリーズで年間3位に入ります。その後も2018年のスカイランナーワールドシリーズで年間ランキング4位、2018年のスカイランニング世界選手権、Ring of Steall Skyraceで4位に入賞。2019年春には来日してワールドシリーズ開幕戦の粟ケ岳スカイレースで4位、6月のトレイル世界選手権で銅メダルを獲得しています。その後は大きなレースでの活躍は少なくなっていましたが、先週のTransgrancanaria Half 20kmで6位となっています。
今回のエピソードでは次のようなトピックが話されています。
幼少期と家族
シェイラは自身の子供時代を「美しくも困難な時代」だったと振り返ります。両親の支えがあったことを認めながらも、特に叔父の薬物依存症との闘いなど、家族の問題を経験したことは自分が若くして責任感のある人間へと成長させたといいます。両親は、アンダルシアの出身で経済的な機会を求めてカタルーニャに移り住み、懸命に働きながら彼女を育てます。シェイラは自らを「チャルネガ(カタルーニャに移住したスペイン南部出身者の呼称)」であると感じていた経験について語ります。
競技者としての成功と苦悩
進学して大学でスポーツ科学を学び、学費を稼ぐためにナイキの店舗で働くようになり、やがてレースで優勝し、結果を出すようになります。しかし自分が達成したことを内面的に公的できない「インポスター症候群」に苦しんだことや、自身の能力に対する現実的な見方について打ち明けます。名声に伴うプレッシャーを認めながらも、自分自身に誠実であり続けたいと話します。
挫折からの回復、生と死
2020年にはシェイラはメキシコでのレース参加中にライム病が疑われる原因不明の病気が発症したこと、ケガとの闘いについても振り返ります。さらにパートナーであったロジャーの死を機に自らの死生観を深め、「永遠の現在」という概念と、今を生きることの大切さに気づくことになったと話しています。
新たな挑戦と未来への展望
現在のシェイラはコーチングやメンタルヘルスにも関心を広げ、人々を支える活動にも意欲を持っているといいます。若いアスリートたちには、成功を追い求めるあまり、人生の他の重要な側面を犠牲にして迷子にならないよう、旅を楽しむようにとアドバイスしています。
2010年代の後半に、特にスカイランニングでその名声を轟かせたシェイラ・アビレスですが、確かに近年はレースシーンでその名を聞く機会が減っていました。その背後にあった出来事と人間としての成長を自ら語るこのエピソードは貴重だと感じました。
ちなみに、このエピソードでもシェイラが「ikigai」という考えから多くを学んだ、と話しています。スペイン人作家のエクトル・ガルシアとフランセスク・ミラージェスの共著で2017年に出版された『IKIGAI: the Japanese Secret to a Long and Happy Life』の大ヒットはランニングのコミュニティでも大きな影響を及ぼしているようです。