大型連休の先週は海外のトレイルランニングイベントのライブ配信をついつい見てしまいました。アメリカ・アリゾナのCocodona 250は5日間にわたる長時間のレースですが、ライブ配信は現地の深夜以外はコース上やエイドからの映像を流し、解説を話し続けるという気合いの入った内容でした。このほかにも、カナリア諸島ラパルマ島からはTransvulcania by UTMBが英語、フランス語、スペイン語のそれぞれでライブ配信、同じくスペインの北部、ナバーラ州レリンからはマウンテンランニングのスペイン選手権が配信されていました。
ライブ配信がトレイルランニングの楽しみ方を広げ、このスポーツの人気をさらに高める上で大きな役割を果たすことは間違いないでしょう。
私自身も海外の大会の日本語版ライブ配信や、日本の大会のライブ配信で解説役を務めるほか、自分自身がカメラや通信回線を手配して配信するという経験もしました。その経験から、海外とは異なる日本の事情がトレイルランニングのライブ配信を難しくしているのでは、と感じることがあります。
今回はその理由をいくつか紹介してみようと思います。
1 日本の山の中は通信回線を確保しずらい
ライブ配信に迫力をもたらすコース上からの映像は、カメラから携帯電話のパケット通信によってインターネット経由で配信スタジオに送られます。このインターネットの回線をより太くするために複数の携帯電話のパケット通信を束ねるボンディングという技術が使われたりするのですが、それもそもそも携帯電話の電波がコース上になければ配信はできません。私の知る限りでは、UTMB Mont-Blancのコースではさまざまな努力によってコース上はほぼ切れ目なく電波がある状態となっているようです。一方、アメリカのウェスタンステイツなどではコース上で電波が入る場所はかなり限られてしまうようです。日本の場合は、登りが急な山が多いせいなのか、トレイルランニング大会のコース上の大半で携帯電話の電波が入らないということが少なくないようです。
この点で、最近日本でも利用可能になったStarlinkの衛星インターネット通信には期待したいところ。アンテナをトレイル上に持ち込めるとしても流石に背負って走りながら通信することはできないでしょうが、アンテナを置いた前後では選手の背中を追いながら走る映像を配信できるかもしれません。
2 ドローンとMTBの規制が厳しい
トレイルランニングのライブ配信の映像を印象的にするのがドローンからの映像です。山の形がわかる空からの映像をズームしていくと、小さな人影が懸命に走っていることがわかる、というのはトレイルランニングだからこそ見られるシーンです。ただ、海外のライブ配信がドローンを活用している映像をみると、日本ではなかなか同じようにドローンを使うことが難しいといく話をよく聞きます。ドローンを操作する許認可、その場所でドローン撮影をするための許認可、安全確保のための手順の遵守など、どれも安全確保には重要なことですが、海外と比べてずっとライブ配信の制作者にとっては負担が重いようです。
似た状況にあるのはトレイル上でのマウンテンバイクの活用でしょう。海外のライブ配信ではヘルメットにカメラをつけたライダーが電動のマウンテンバイクに乗って選手の後ろから追い続けるというシーンをよく見ます。トレイル上でのマウンテンバイクは日本ではほぼタブーのようになっていて、同じようにライブ配信でマウンテンバイクを使うことは難しそうです。そうすると、カメラマンは自分の足で選手を追う必要があります。海外でもテクニカルな岩場のトレイルなどではバイクを使わずに足で走るカメラマンが選手を追うシーンもありますが、マウンテンバイクに比べれば体力の消耗は激しいでしょう。
3 ライブ配信の制作のノウハウと予算の不足
上記の2点は重要ですが、より本質的には日本のトレイルランニングについてライブ配信をしようと思っても、制作のノウハウの不足が著しいのは否めません。長時間にわたることもあり、電波の都合でコース上からの映像が流せない時間が生じることもある、というトレイルランニングでライブ配信をするには、スポーツそのものについて知った上で構成を考える必要もあります。時には実際に海外のライブ配信を長時間視聴してみる必要もあるでしょう。
そして詰まるところは予算の不足という問題に行き着きます。海外のライブ配信では実際にコース上でカメラマンが持つカメラが20台、スタートやフィニッシュの会場で撮影するカメラが10台といった具合です。それぞれのカメラマンの人数にさらにさまざまな仕事を分担して担当する人を加えると、相当の数のスタッフを動員する必要がります。そのために必要なのは予算ということになります。
このように日本でトレイルランニングのレースのライブ配信をしようとすると、質の高いものにするには相当のリソースが必要になり、リソースを投入してもさまざまな規制がライブ配信に足かせとなります。
ちなみに私自身はこれまでのところ、ライブ配信の進行役と解説役をかねてやることが多いのですが、これも問題なのではと個人的には感じています。私はさほどしゃべるのが得意ではなく、視聴者の皆さんにとってはストレスになっていると自覚しています。せいぜいメインの進行役のサブとして解説をするか、それとも配信のスタッフの一人として仕事をしたほうがいいのではないかと思っています。日本でもトレイルランニングのライブ配信が広がる中で、何らかの役に立つことができたらと考えています。