サウスチャイナモーニングポスト(SCMP)は香港の英字高級紙なのですが、時おり香港のトレイルランニングコミュニティの濃い話題が記事になるので驚きます。まるでDogsorCaravanの記事が朝日新聞に載るようなものです。そんなSCMPのトレイルランニングの濃い記事の記者はいつもマーク・アグニュー記者なのですが、日曜日にまた濃い記事が掲載されていました。
6月6-10日にオーストリアのインスブルック、ステューバイでマウンテンランニング・トレイルランニング世界選手権(WMTRC)が開催されます。香港からは2019年のUTMFで女子5位のチュン・マンイー Man Yee CHEUNGや2019年UTMBで男子6位のウォン・ホーチュン Ho Chung WONGを含む4人が代表選手として選ばれています。香港陸上競技協会(HKAAA)が選手を選考し、派遣するのですが、これに対して香港トレイルランニング協会(TRAHK)が派遣費用を負担するので、より多くの選手を派遣すべきだ、と主張。WMTRCには全部で4つの競技があり、それぞれに男女のレース、ソロに加えて3選手のタイムによる国別団体の表彰も行われるのだから、可能な限り派遣の幅を広げるべき、というわけです。それに応じないHKAAAは「トレイルランニングの発展を阻んでいる」とメールで非難したとのこと。
これに対してHKAAAは代表選手として派遣する以上は一定以上の競技レベルに達している必要がある、と一蹴。さらに適正な手続きで代表選手を選んだHKAAAへの非難を取り下げ、謝罪を要求した、といいます。
トレイルランニングという新しいけど熱意ある人たちが集まるスポーツに対して、既存の陸上競技のコミュニティがとりつく島も与えないのはひどい。ざっと読むとそんな感じがするわけです。
ただ、真正面からHKAAAを面罵するようなやり方で、TRAHKやアスリートに扉が開かれる可能性があったのだろうか、とは思ってしまいます。TRAHKの会長はITRAの会長で、Hong Kong 100のレースディレクターであるジャネット・ウンさんです。そんなジャネットさんが起こした行動であれば、熟慮の末のことだったのでしょう。日本とは社会で意見を通すためのアプローチも違うのかもしれません。
日本でもトレイルランニングと陸上競技の間には深いギャップがありました。その状況が近年よい方向に変わりつつあります。その背景にあったのは、ワールドアスレティックがWMTRCを主管することになったことで、日本代表の選考と派遣も日本陸連が主管することになったことが一つ。もう一つは皆さんご存知、福田六花さんがトレイルランニングのコミュニティはもちろん、陸上競技界にも広い人脈をお持ちであったことが挙げられます。とはいえ、たとえば今回は旅費は選手自身が負担するなど、日本代表選手の派遣の環境を整えるにはまだこれから努力が必要なようです。
ひとまずは来月のWMTRC世界選手権で日本代表選手はもちろん、香港をはじめ世界各国から集まる代表選手の皆さんの活躍に期待したいと思います。